海映えを 葉に蓄えて 椿咲く――高知〜竜串・足摺岬、四万十川をめぐる水と岩の旅
四万十川 佐田の沈下橋 断崖に燈台が立つ足摺岬




●内と外で対照的な海岸線を描く横浪三里

 2006年の正月が明けて最初の連休、1月8日・9日の両日に一泊二日で四国高知の足摺岬と四万十川に足をのばした。交通機関は亡父の形見の軽自動車。正月が大型連休化しており、道路の混み具合が心配だったが、大阪近辺以外は渋滞知らずで快適だった。
 ルートは、阪神高速から第二神明を経て明石海峡大橋を渡り、徳島道を経由、川之江JCTで高知道に入った。阿波池田あたりから山肌が雪景色になっていく。高知道はほとんどトンネルの連続だったが、融雪剤を散布しており、南国市に抜ける頃にはフロントガラスが見えづらく、車体も塩をふいたように白くなった。
 高知道の終点・須崎東で降り、若干迷いながら横浪三里へと立寄った。横浪三里は、細長い形の大きな内海で、その湾内は光り輝く水面にのどかな漁船が浮かぶ穏やかな光景であった。湾口は川にように狭く、大きな橋で越えられる。外海に面する道に出ると、景色は一転して断崖の続く海岸線となり、波は白波の立つ荒いものとなる。
 内海の道路は海面近くで漁村沿いに走るが、外海側は波打ち際から百メートル以上の高い地点を行き、巨大な円弧を描く水平線が見える。

雪景色の高知道 横浪千里の内海の風景 横浪千里の外海は断崖が続く




●竜串海岸の奇岩を波が洗う

 横浪三里から須崎に戻り、「道の駅」でマグロ丼の昼食。あとは一般道で四万十市(旧・中村市)を経て竜串を目指す。なかなかの距離がある。
 「竜串・見残し」は、波の浸食によってできた奇岩を中心にした海中公園で、透明度の高い海と珊瑚も有名である。弘法大師も訪れ、その際に竜串は見たものの「見残し」に立寄る時間がなかったことから一風変わったネーミングの由来となっている。到着すると、グラスボートの乗船券を購入した。時間帯が遅かったため、通常おこなわれる見残し上陸が省略されることが条件となる。
 グラスボートまでの時間に、竜串側の奇岩類を見て廻る。名称のついた岩が連続して並び、その先に海中展望塔があるが、先月に串本で見たばかりなので省略。
 停泊中のグラスボートを見て感心したのは、海水の透明度。私は海のそばで育ったので停泊中の船を見るのは珍しくないが、まるでガラスの上に置かれているように、海水を透過して底の砂地まで見える船着場はなかなかない。
      
      
竜串海岸 竜の波返し 深く刻まれた波打ち際の岩

鯨のひるね 夫婦岩 竜の卵 竜串海中展望塔を望む




●「見残し」を見残すことなく

  時間帯が遅かったためか、グラスボートの乗客は私一人だった。一人貸切状態で沖に向かう贅沢な航海となる。    
 透明度の高い海水によって、海底の景観は見ごたえがある。岸から相当沖までは白い砂地であり、色は緑色に見えるが深度によってその色の濃さを増す。沖合いで底が深くなると藍色に変わり、ついには底が見えなくなる。海底から突き出したような岩礁の真上に停船すると、水面下の浅い岩の上を珊瑚が彩っていた。
 見残し周辺に向かう海では、意外なほど船は揺れる。私は比較的慣れているので大丈夫だったが、普段船に乗ることのない都会人はこのわずかの数一〇分の間でも酔うかも知れないと思った。特に船の中央で底を見ているとまずく、窓から外を見ているほうが良い。
 弘法大師が見落とした「見残し」を船から見る。海食の影響を受けやすい砂岩を荒い波が削った自然の造型である。
      
グラスボートから珊瑚を見る 海上から見た「見残し」 海鳥の憩う岩礁




●足摺の落日と朝の白山洞門


 足摺へ向かうルートは三通りあるが、中央の山越えルートが一番道路がよかった。翌日通った東海岸沿いのルートは途中で恐怖の一車線になり対向車を気にしながらの走りになってしまった。
 午後6時前に予定通りホテル椿荘に到着。ホテル前に無料駐車場があるので便利、部屋はオーシャンビューで値打ち物だった。この宿はインターネットで見て申し込んだが、口コミには「部屋からの眺めが良い」「食べきれないほどの食事で満足」という評価と、「風呂が狭い」「食事は冷めたものが多い」という苦言があった。眺めと食事の量はその通り、浴場はたまたま自分一人の入浴だったので狭いとは感じなかったが、 わずかにカルキ臭が気になった。一応温泉なのだが、海岸沿いの崖の上の立地で湯量が豊富であろうはずもない。
 宿泊代は約8000円の安さながら、夕食は部屋に来たので、窓から太平洋に沈む夕陽を眺めながらの夕食となった。
 翌日、朝食後宿から直下の海岸へ降りた。白山洞門と名づけられた巨大な海食洞がぽっかりと穴を開けている。穴を通ってくる波が累々とした岩に砕ける。白山洞門には上に登るためのザイルがついていて、クライミングできるようだったが、あたりに人影もなく、コースを熟知していないので危険を感じたので岩の上に登るのは諦めた。
 


   
椿荘の窓から見る太平洋の夕陽 青畳と窓からの眺めが印象的 白山洞門 洞門内から朝の太平洋を望む




●足摺岬の遊歩道には断崖と植物

 足摺岬一帯には遊歩道が網羅されていて、主要な見どころをめぐることができる。白山洞門から遊歩道で足摺岬燈台へ向かった。「潮の干満の手水鉢」と名づけられた窪みを持つ岩から、柱状に節理する豪快な断崖と白い燈台が見える。
 足摺岬燈台は内部には入れないが、燈台の周囲を遊歩道が巡り、水平線がよく見える。東側に行くと展望台があり、眺めが良い。足摺岬の写真の代表的なものは、この展望台からの撮影であろう。
 岬には椿の木が多く、場所によっては道を覆ってトンネル状に枝が形成されている。断崖の岩の上という条件で植物にとっては厳しい環境であろうと思われるが、暖かな気候と目いっぱいの太陽光によって自生するビロウ樹などの亜熱帯の植物も見られる。

 
            
「潮の干満の手水鉢」から見た足摺岬 柱状節理の断崖(西から見た燈台) 80mの断崖上に立つ18mの燈台 東側の展望台から見た足摺岬
            
椿のトンネル 荒海の小さな岩礁に釣り人が… 野地菊の花が咲く 自生するビロウ樹




●最後の清流、四万十川を訪ねる

 椿荘前の駐車場に戻り、車で出発。四万十市で左折し、四万十川の上流をめざした。
 市街地から佐田の沈下橋まではそう遠くなかったが、周囲は驚くほど静かだった。四万十川の水面は太陽の光を細かく反射させている。沈下橋は増水時には水が橋を越えて流れるために、手すりもガードレールも取り付けられていない。歩道橋と先入観があったが、車も通る。
 沈下橋はこの佐田だけでなく四万十川の上流や支流の各所にあるらしい。以前、徳島県の穴吹川を通った時もその清流ぶりに驚かされたが、いつまでもこのような川の存在を守れるような国であってほしいと思わずにはいられない。

上手から見た佐田の沈下橋 水面から低く手すりがない 四万十の川床(人影はカメラを向けた私)







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