岩塔を 登る道あり 初紅葉――奈良県 稲村ケ岳・大日山に登る
大峰の山々を展望する尾根道 大日のキレット:垂直の壁


●洞川温泉より稲村ケ岳をめざす


 1997年10月10日、奈良県の大峰山系、稲村ケ岳(1726m)に登った。同行者は、私の山歩きの先達である高光氏(高校の同級で当時彼は登山部だった)と、私の職場の同僚で山好きの大河氏。早朝6:00に東大阪の長田駅に集合、高光隊長の車に乗り込む。
 起点となる洞川温泉をめざす。洞川にはこの山行の前の7月に、大河氏とみたらい渓谷歩きの際に訪れたことがある。その時には、バスの中で変なオバサンが「一緒に行きたい」とついてきたので変な三人の珍道中になったのだが、このオバサンは現地を全く調べず、食糧はおろか地図も水も持たない全くの軽装で歩こうとしていた。結局約2時間渓谷歩きを同行し、洞川で帰ったのだが(われわれはさらに山上ケ岳下まで歩いた)、わけの分からない人だった。無謀としかいいようがない。
 今回はそんなハプニングはなく、洞川温泉駐車場に停車(ありがたいことに駐車は無料でした)。温泉街を通りながら登山口へ。最初の登りはひたすら杉林の中を登っていく。この最初の登りは樹木に覆われ展望が今一つだが、道の雰囲気はよく、徐々に杉から広葉樹の混じった植生に変化する。
 
 
みたらい渓谷 最初の登りは杉林の中 尾根道から見た断崖の岩

●法力峠から山上辻までの快適な道

 温泉街から登り始めた道が斜面を登りつめると、法力峠と呼ばれる尾根道との合流点に出る。ここからは道の傾斜が緩やかになり、展望が開け、快適になる。最初の登りでバテ気味だったので、助かった。途中に沢の水場もある。この高さだと紅葉が鮮やかに進んでいた。
 山上辻付近に来ると、大日山の峰が見える。稲村ケ岳とツインピークの山だが、まるで鉛筆の先のような尖塔状の岩の峰になっている。それが真っ赤な紅葉で鮮やかに彩られている。遠目で見る限り、こんな山には登れそうもないと思える。しかし、あとで取り付いてみると、そこには道があり階段や梯子もあってちゃんと登れるようになっている。
 
稲村岳山小屋看板 山小屋内部 山小屋前で昼食

●眼下に広がる紅葉の山々

 山上辻の鞍部にある山小屋前で昼食を摂る。歩いている時は暑かったが、食べているとどんどん寒くなってくる。風が吹き抜ける地形のせいもあるが、血液が急に内臓に集まってきたせいもあるのだろう。と言うのも、午後からの再出発後はすっかりバテてしまって、足が上がらなくなった。
 ここから山頂までの道は、細く厳しい箇所もあるが、景色や雰囲気は最高に良い。何箇所か鎖場があるが、危険はない。
 まず、稲村ケ岳山頂に至る。山頂は樹木があって展望が利かないため、鉄製の展望台が設けられており、360度の眺望が確保されている。大普賢岳、弥山、八経ヶ岳といった錚々たる大峰山系が肩を並べる仲間のように取り囲んでいる。
 展望台から木の根を這うように細い尾根の先端まで進むと、足元が崖となっている畳一枚分ほどの岩場に立つことができる。思わず感嘆と恐怖の声を上げた。眼下に広がるのは民家も道路も見えない自然の山肌、それが燃え立つような紅葉に染まり、遠くは青色の段彩を成す峰々が連なる。並び立つ大日山の岩塔に登る登山者の姿が見える。赤・黄・緑のパッチワークのなかを人間が上り下りしている。
      
稲村ケ岳に向かう道 近畿最高峰・八経ヶ岳方面を望む 稲村ケ岳から見た大日山

●大日山によじ登る

 稲村ケ岳から少し戻って大日山への分岐に立つ。大日のキレットの深い切り込み。崖は垂直をなし、迫力がある。遠目には一般人が登れそうもない山に見えたが、階段や梯子を使って岩場を登ることができる。先ほど稲村ケ岳から見えた登山客はこのルートの上り下りであったことがわかる。
 大日山の山頂には、山名の由来ともなっている祠がある。その裏手に廻ると、やはり眼下に山々を一望するビューポイント。修験道の山伏は、われわれの登ってきた道ではなく、こちら側の全く自然のままの藪や岩場を登って修行するらしい。

      
深く刻まれた大日のキレット この険しい大日山にも登る道があり 大日山の山頂の祠

●山上ケ岳の女人結界門を廻って下山

 山小屋前に戻り、山上辻から山上ケ岳方面へ進んだ。この道は細かくアップダウンしながらのトラバース道だが、通行者は少なく、ほとんどすれ違う人もなかった。
 山上ケ岳への登山道と洞川温泉への下山道の分岐となるレンゲ辻に到着する。山上ケ岳とは、いわゆる「大峰山」と呼ばれる修験道の山で、今でも女人禁制となっている。「西の覗」の修行で有名な断崖が見上げられる。ここでは立ち枯れた木々が目につく。同様の立ち枯れ現象は八経ヶ岳や大台ケ原でも見かけたことがあるが、胸が痛む。
 レンゲ辻から女人結界はくぐらず、大峰大橋へと下山する。この下山道は、ごろごろした岩が多い荒れた道で疲労のたまる膝にこたえた。薄暗くなりかける頃に大峰大橋の林道に出て、温泉街へと戻っていった。最後に、駐車場前の温泉センターで入浴し、高光隊長の運転で帰阪。こんなにも険しい山だったが、日帰りで登れたことに感謝した。
      
レンゲ辻への道 修験道の行場・山上ケ岳 女人結界門
レンゲ辻から荒れた道を下る 母公堂:付近に名水ごろごろ水が湧く